分化全能性を有する植物は、様々な外的・内的なシグナルに対して、細胞分裂と分化とを柔軟に制御していることが知られている。私はこれまでに、その細胞の分裂と分化の方向性は、細胞周期の進行を制御するサイクリン依存性キナーゼ(CDKs)の活性レベルによって決定されていることを明らかにした。そこで、本研究では高頻度かつ同調的に脱分化そして道管を構成する管状要素細胞へと分化を誘導することが可能なヒャクニチソウ葉肉細胞培養系に着目し、誘導過程においてCDKsの発現や活性がどのような制御を受けているか解析を行っている。 昨年度までに私は、細胞周期の進行の決定に重要なCDKA(ZeCDKA)を単離した。さらに、今年度は分裂期特異的に発現し植物にのみ存在するCDKBに属するZeCDKB1;1についても単離することに成功した。これらの機能を推測する目的で、出芽酵母cdc28変異株にこのZeCDKA、およびZeCDKB1;1を導入したところ、ZeCDKAはcdc28の温度感受性を相補することができたのに対し、ZeCDKB1;1はむしろ許容条件下においても生育を阻害することが明らかとなった。また興味深いことに、CDK活性化キナーゼ(CAK)によるリン酸化部位を置換したZeCDKAを導入した場合にも、相補活性はみられなかった。これまでの発現解析結果と併せることにより、ZeCDKAは葉肉細胞が脱分化能を獲得する時期に、発現が誘導されるものの、その一方で、サイクリンやCAKなどの相互作用因子により、その活性は厳密に制御されていることが判明した
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