ヒスタミン合成酵素(HDC)を欠損するマウスに認められた著しい成長遅延が、母個体の泌乳不全が原因である事を明らかにした。この泌乳不全は、組織および行動観察結果から乳脂肪滴の分泌が正常に行なわれず細胞内に止まっていることに起因するものと考えられた。その原因として脳下垂体由来のオキシトシンの不足が疑われたが、HDC-KOマウスにおいて搾乳刺激後の血中オキシトシン濃度には野生型個体との差が認められなかったことから、乳腺組織のオキシトシン感受悔が低下していることが示唆された。一方、このHDC-KOマウスに認められた表現型は泌乳期のヒスタミン投与によっては補償されないこと、また野生型にヒスタミン受容体阻害剤を投与しても同様の表現型を得られなかったことがわかった。したがって、HDC欠損マウスの泌乳異常は、ヒスタミンの発生影響によるもの、HDCのヒスタミン合成以外の機能によるもの、ヒスタミンの細胞内機能によるもの、のいずれかが関与していることが示唆された。 また、ドーパミン水酸化酵素(DBH)およびその類似遺伝子moxd1産物(Mox)について、CHO細胞を用いた誘導発現系を作製し、同タンパクの精製法も確立した。Moxの過剰発現により、DBH発現では見られない細胞の接着性の低下が観察された。さらに、Moxに強いDBH活性は認められなかった。したがって、MoxはDBHとは異なる機能を有する事が示唆された。以上の事から、乳腺局所で発現する酵素によって産生されるモノアミンは、細胞内外で固有の働きを有し、泌乳を制御していることが示唆された。
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