1.線虫の化学物質に対する誘引行動の加齢にともなう変化 加齢や老化といった動物が避けることのできない現象について、行動をつかさどる神経基盤の加齢変化や遺伝機構を解明することは高齢化が進む現代社会において重要な研究課題の一つである。本申請研究では、線虫(Caenorhabditis elegans)の加齢プロセスとそれにともなう行動様式の変化に神経系や遺伝子がどの様な役割を果たしているのかを調査している。予備的な実験結果から、加齢にともなう誘引行動の変化が観察されていたことから、ビデオ撮影などを用いてさらに詳細な解析を行った。水溶性物質酢酸ナトリウム(1M)と揮発性物質ジアセチル(0.1%)に対する線虫の誘引行動について様々な成長ステージで調査したところ、これら誘引物質に対する線虫の反応(誘引率)は成長にともない上昇し、Young Adultステージで最大となることが判明した。以後のステージでは老化にともなう反応の低下が確認された。誘引物質に対する誘引率と線虫の自発運動の大きさを比較した結果、両者に有意な相関が認められた。このことは、加齢にともなう誘引反応の変化が、線虫の運動能力の変化によってもたらされる可能性を示唆している。また、酢酸ナトリウム(0.3M)とジアセチル(0.1%)の対提示に対する線虫の反応についても異なる成長ステージで調査した。しかし、物質選択における加齢の影響を認めることはできなかった。現在は、感覚受容能力の変化についての解析を進めている。これら行動実験による知見は、次年度以降の電気生理学的解析や行動遺伝学的解析を行うための基礎となると考えられる。 2.ニューロン応答計測のための実験装置のセットアップ 前述の化学物質に対する誘引反応の加齢変化は、線虫の運動能力の変化に加え、感覚受容能の変化によってももたらされる可能性が考えられる。感覚ニューロンレベルにおける受容能の加齢変化を解析するには電気生理学的な調査が不可欠となる。ニューロン活動をモニターするための実験装置をセットアップし、線虫の化学物質に対する感覚ニューロン応答を計測する準備を行った。
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