研究概要 |
今年度は静岡県浜名湖で得られた古紐虫類に関する分類学的研究を行い、その成果を国際学術雑誌Zootaxa誌に投稿し、掲載許可を得た。現在印刷中の当該論文中では、3新種の記載および1既知種の再記載を行っている。このうち既知Coeia ijimai(和名イイジマヒモムシ)は1922年に高倉卯三麿氏が新属新種として発表して以来、報告のなかった種である。新たに得られた標本を観察した結果、高倉氏が新属Coeia設立の根拠とした形質は全てHubrechtella Bergendal,1902に含まれることが判明したため、Coeia属はHubrechtella属の主観後行異名と判断された。また、3新種のうちCarinina属とCallinera属は国内初記録属となる。このうちのCallinera属の1種では、吻装置に針状の構造体を持つことが、コンピュータを用いた3次元立体構造再構成によって明らかとなった。このような構造体は古紐虫類ではこれまでに全く知られておらず、ヒモムシ類固有の器官である吻装置の形態進化を考える上で興味深い発見と言える。さらに、この研究の過程で判明したクリゲヒモムシ科の命名法的問題点に関する訂正提案書を、国際動物命名法委員会発行の機関誌Bulletin of Zoological Nomenclature誌に投稿した。このほか、現在国内から記録されている全ての種を網羅した分類カタログを投稿準備中である。紐形動物の分類学的研究には連続切片標本の観察に基づく比較形態学的研究が必要となるが、本年度は昨年度に続き、国内において得られた標本のデジタル画像をハードディスクに記録した。現在画像ファイルの総数は3万枚を超え、ハードディスク上の容量は約60GBになろうとしている。
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