研究概要 |
2003年の夏期に南アフリカで採集されたビドーカカトアルキ成虫を材料として,その卵巣構造と卵形成過程を光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて観察・記載した(Tsutsumi et al., 2004)。ビドーカカトアルキの左右の卵巣はそれぞれ5〜6本の卵巣小管からなっていた。各卵巣小管は側方にのびた側輸卵管に連続的に挿入される「櫛歯型配列」であり,カカトアルキ目との類縁性が指摘されたカマキリ目の卵巣小管配列のような「総状型配列」ではなかった。各卵巣小管の基部には卵殻形成が完了した成熟卵毋細胞が1個ずつ観察されたが,側輸卵管に成熟卵毋細胞が排卵された個体では,さらにそれぞれの卵巣小管にもう1個ずつの成熟卵毋細胞が観察される場合もあった。ビドーカカトアルキのメスは10〜12個の卵を卵塊として産卵するが,この卵塊を構成する卵数は,各卵巣小管に発達し,側輸卵管に排卵される成熟卵母細胞の数と一致していた。1本の卵巣小管は端糸,形成細胞巣,卵黄巣からなり,卵黄巣には濾胞細胞に囲まれた卵母細胞7〜14個が1列に並んでいた。成虫の形成細胞巣は非常に短く,その中には数個の卵原細胞と著しく扁平化した体細胞が存在したが,卵原細胞間に細胞質連絡橋は認められなかった。また,形成細胞巣内や卵黄巣中に栄養細胞も認められなかった。これらのことはビドーカカトアルキの卵巣型が多新翅類に属する多くの目の昆虫に認められる典型的な無栄養室型であることを示している。成長した卵母細胞の細胞質内には,ミトコンドリアや小胞体由来と思われる断片化した小胞が大量に観察された。しかしながら,カカトアルキ目との類縁性が指摘されたナナフシ目の成長した卵母細胞質内から報告されている特徴的な細胞小器官「多胞体」は認められなかった。
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