スイレン科コウホネ属、スイレン属、およびハゴロモモ科ハゴロモモ属のハゴロモモについて、花の匂いの捕集・分析を行った.コウホネ属コウホネおよびヒメコウホネについて、京都府、滋賀県、岐阜県の前年度に採集した場所以外の自生地において、花の匂いの捕集を行った.それぞれの自生地において、花の匂いをヘッドスペース法で捕集し、ガスクロマトグラフィー・質量分析器(GC-MS)を用いて分析を行った.その結果、前年度の結果と同様に、花の匂いの化学組成の質的な違いはほとんどなく、量的には花が大きいコウホネがより多くの花の匂い物質を放出していた.サンプル数を増やすことで、コオホネ属の花の匂いの化学的特性に個体間変異はあまり存在しないことが明らかになった.スイレン属に関しては、植物園で栽培されている個体から花の匂いの捕集・分析を行った.GC-MS分析の結果、意外なことにコウホネ属植物の花の匂いの化学的特性と顕著な違いは見られず、炭化水素やベンゼイノイド、脂肪酸誘導体が見られた.特に炭化水素化合物はコウホネ属とスイレン属で共通して見られ、一方、テルペン系化合物は特にコウホネ属で見られることから、炭化水素化合物はコウホネ属とスイレン属が系統的に分岐する以前の花の匂いを示しているかもしれない.そして、コウホネ属が分岐した後に、テルペン系化合物を匂いとして放出するようになったのであろう.前年度に花が小さいためにはっきりとした結果が得られなかったハゴロモモについて、今年度は、匂いの捕集時間(より長く)と吸着剤の量を調整しながら、実験を行ったが、匂いの捕集時間を長くすると、捕集管(ガラス管)に(水生植物ゆえに)水分がたまり、それが匂い物質の吸着の邪魔となって、結果的に前年度よりもよい結果は得られなかった.吸着剤と同様に捕集管についても水分が吸着しにくい材質を用意すべきであったというのが反省点である.
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