無尾両生類におけるmtDNAの構造の多様度と分子進化のプロセスを推定すること、並びに、ゲノム構造を指標として無尾類の高次分類群の系統関係を明らかにすることを目的として研究を実施した。 本年度は、無尾類16科のサンプルを収集し、そのうち、ヒキガエル・アマガエル・アオガエル・ヒメアマガエル・マダガスカルガエル科のサンプルについて、mtDNAの全塩基配列の決定を行った。その結果、進化的なグループとされる、カエル亜目(Neobatrachia)に属する種のmtDNAでは、全て4つのtRNAの遺伝子配置が共通して変化していることが明らかとなった。ミトコンドリアゲノム全遺伝子の塩基・アミノ酸配列に基づく分子系統解析の結果、カエル亜目は単系統群になることが示されたので、4つのtRNA遺伝子の移動は、本グループの共通祖先において生じたものと結論できた。さらに、アオガエル科とマダガスカルガエル科においては、ND5蛋白遺伝子のコントロール領域下流への移動が共通して見られ、この遺伝子配置変化は、両科の単系統性を裏付ける証拠と考えられた。マダガスカルガエル科の系統的位置に関しては、長年議論が続いていたため、この結果は非常に興味深い。さらに、マダガスカルガエル科の中では、比較的近縁なグループ間で、大規模なゲノム構造の変動が生じていることが示唆された。このような例は、これまでにほとんど知られていないため、今後このグループの解析を進めることで、mtDNAゲノム多様化のメカニズムについて、詳細かつ、新たな知見が得られると期待される。 現在、上記の結果のうち、アオガエル科のシュレ-ゲルアオガエルと、マダガスカエル科のハイレグアデガエルのmtDNAについて、日本動物学会第75回大会で発表を行い、さらに論文を準備中である。
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