研究概要 |
これまで未開の地であった国内の林冠昆虫相の実体把握と、林冠を主な生活圏の一つとし、なかでも種数が多い植食性甲虫類に焦点を当て、その多様性の現状を種レベルで把握することを目的に調査研究を行ってきている。 今年度は、調査準備ならびに試験的調査として、7月以降、四国、九州、沖縄の異なる森林環境で調査を行い、以下のような成果を得た。 1、国内では初となるフォグマシンを導入した林冠昆虫相を網羅的に調べる調査法を確立した(小島,2004)。 2、異なる森林環境ごとの林冠昆虫相の概況を把握した。 ハエ、甲虫、ハチの3目が、林冠での昆虫の優先群となっていた。亜熱帯林(沖縄)では、アリ類の占める割合が著しく増え、冷・暖温帯林との顕著な違いとなっていた。また、それに伴ってか、アブラムシ類やアザミウマ類などの半翅系昆虫の割合も、冷・暖温帯林に比べ高い傾向が見られた。 3、植食性甲虫類については未記載種を含め、生物地理学的ならびに系統分類学上興味深い種が得られており、多くの生態不明種の加害樹種も明らかとなりつつある。以下は、これまでの成果の一例である。 (1)暖温帯林や亜熱帯林の調査では、これまで東南アジアからしか知られていなかった分類群の新種が国内から見つかった(Kojima et al., 2005 Esakia, 45, in press)。 (2)アジア-太平洋地域に広く生息するにも関わらず、生態的知見が分からず、採集される個体数も極めて少なかったゾウムシ類の一群が、クワ科植物を利用していることを解明した(Kojima, Coleopterists Bulletinへ投稿中)。 (3)熱帯や亜熱帯では例の少ないブナ科を利用するシギゾウムシ類を発見した(小島、Coleopterists Newsへ投稿中)。 来年度以降は、樹木の開花期や新葉の時期から調査を始め、年間を通じたデータをとって林冠昆虫相を分析していく必要がある。
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