研究課題
生物学の発見のほとんどは、理論的には予想の付かないことの連続であって、役立つデータ解析法を開発するためには、具体的な問題解決を通して行うべきと考える。生物学の具体的な問題を解決しながらデータ解析法の開発を進めている。本年度は中国にのみ生息する絶滅の危機に迫られている野生の揚子江カワイルカのミトコンドリア・ゲノムを決め、"クジラ目におけるカワイルカの系統関係および分岐年代の推定"に関する研究を具体的な問題解決の対象に、研究を進めてきた。クジラ目に置けるカワイルカの系統関係の推定に至って、最尤法による解析を行う際に、扱う生物種の数が増えることによって、可能である系統関係を表す系統樹の数は爆発的に増加し、トポロジー空間を網羅的に探索することは困難になった。そこで、ベイズのMCMC法を用い、その過程で生成されるトポロジーを保存しておくことを考えた。最終的には、収斂されたそのトポロジー・セットについて最尤法で解析を行い、カワイルカに関する研究結果をまとめた。扱う生物種の数の増加で最尤法だけでは不可能だった最適なトポロジー探索を、ベイズのMCMC法の活用によって、系統樹トポロジー探索法を生み出した。最尤系統樹の候補になるトポロジーの数を絞ることができた。また蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列の解析においては、コドン(codon)内の塩基間の相関を無視した解析の欠陥を指摘し、コドン置換モデルの有効性を明らかにした。分岐年代推定に関しては、multiple referencesによるcalibrationを取り入れ、生物の各系統で異なる進化速度などの考慮を認識する解析法を用いた。その他、中国上海複旦大学生命科学院の研究グループと共同で、SARSの伝播機構を探る研究を行い、その研究結果は学術論文で発表された。
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Molecular Phylogenetics and Evolution in press
BioSystems 82
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