これまで含水生体試料で試料発熱を抑制することを目的に、観測核に必要なラジオ波強度を任意に減少させる感度増強法、^1H同種核間磁気双極子相互作用デカップル交差分極法(TANMA-CP)および構造解析法、2次元双極子磁場分離法(TANSEMA)を開発した。本研究ではこれらの測定法で用いた"Time Averaged Nutation"の概念を拡張し、ラジオ波照射の時間と有効磁場強度の双方を変化させることにより、異種核間磁気双極子相互作用の復活に必要なHartmann-Hahn条件を無限の組み合わせに拡張することが可能であることを理論的および実験的に証明した。この拡張により、独自に開発した上述の用途の異なる二つの低試料発熱測定法で実験条件に応じてさらに適切に微細な実験条件の調整を可能にした。また本拡張概念を用いて観測核のみならず^1H核に照射するラジオ波強度も同時に抑制することが可能になり、さらに低発熱な測定法を開発できた。さらに中古プローブを元に、共鳴回路、検出コイルを作り直し、配向生体試料に最適化した静止配向試料用プローブ作成をほぼ完了した。 構造解析対象である、ホルモンペプチド、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)および内因性オピオイドペプチド(β-エンドルフィン)では、QCM法を用いて酸性/中性混合脂質に対する結合定数を決定した。その結果、両ペプチドとも生体の脂質膜組成に近い酸性/中性脂質の混合比で結合定数が最大値を示すことを発見した。また^<13>C-NMR測定結果から、ACTHでは酸性/中性脂質混合比に応じてその立体構造を変化させ、上述の結合定数で極大値を示した酸性/中性脂質混合比で最も安定な立体構造を持つことも判明した。またβ-エンドルフィンではこれまで行った中性膜に結合した立体構造解析では弱い信号強度を示した主鎖カルボニル炭素が、脳神経細胞め脂質組成をモデルにしたDMPC:DMPE:DMPS=3:3:1の混合脂質上で極めて強い信号を示すことも判明した。
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