本研究では脂質と相互作用する生理活性ホルモン分子試料が、活性状態を維持可能な試料条件に適した新規固体NMR測定法の開発を行い、さらにこれらの測定法を実際に用いて脂質膜上で相互作用するホルモンペプチドの精密立体構造解析を行うことを第一の目的とした。 まず含水生体試料で試料発熱を生じない低出力ラジオ波を用いた感度向上法DATANMA-CPと同じ原理を、申請者が以前開発した2次元双極子磁場分離固体NMR測定法であるTANSEMAに適用し、DATANSEMAを開発するのに成功した。本測定法では、TANSEMAと比較して試料発熱の原因になる^1H核のラジオ波の出力も著しく抑制することを可能にしながら、TANSEMAと同程度の性能維持に成功した。^1H核ではラジオ波照射時間の半分以上の時間で、最大で1/82までラジオ波出力を抑制することに実験的に成功した。 一方、これまでの研究で二次構造解析を行ってきたホルモンペプチド、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)および内因性オピオイドペプチド(β-エンドルフィン)では、各ホルモンペプチドの受容体が存在する生体中の脂質組成に基づいて作成した混合不飽和脂質膜に再構成して固体NMR測定による構造解析を行った。その結果、その脂質組成に依存してペプチドの運動性、構造が大きく変化することが判明した。これにより、各ホルモンペプチドの各々の脂質組成での特定の脂質でのペプチド結合サイト、およびその機構を生じる相互作用の詳細な解析に成功した。
|