研究課題
Bacillus thuringiensis(以下BT)は殺虫性の毒素タンパク質を結晶状に貯蔵し、これらは特定の昆虫のみに殺虫活性を示し、人畜や環境に影響を与えないことが明らかとなってきた。ところが近年、我々は殺虫活性、溶血活性は示さないが、特定の哺乳動物細胞(がん細胞を含む)を選択的に認識し、破壊する新奇のBT毒素タンパク質を同定した。このタンパク質は、培養がん細胞に対して毒性が高く、細胞への特異性が高い。本研究ではこの毒素の細胞認識を決定している分子メカニズムを解析し、毒素受容システムの解明を中心に、以下の問題点について解析を進めた。(1)細胞上に存在する受容体分子の同定(2)細胞破壊の分子作用機序(3)新規BT毒素の立体構造解析この結果、(1)に対して、細胞表面に存在する脂質タンパク質の一つであるGPIアンカータンパク質がこの毒素の選択的細胞認識に深く関わっていることがわかった。さらに、細胞の膜画分に毒素結合タンパク質(約60kD)を発見した。現在、この分子の同定を進めている。(2)に関して、この毒素は標的細胞膜の脂質ラフトに(おそらくGPIアンカータンパク質を経由して)結合し、毒素オリゴマーを形成することによって細胞膜に比較的大きな(数10Å)孔を形成している事がわかった。よって、この毒素は細胞膜に傷害を与え細胞死を引き起こしていると考えられる。(3)では、産業総合研究所との共同研究で、この毒素のタンパク質の結晶化に成功した。
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