Bacillus thuringiensis(以下BT)は殺虫性の毒素タンパク質を結晶状に貯蔵し、これらは特定の昆虫のみに殺虫活性を示し、人畜や環境に影響を与えないことが明らかとなってきた。ところが近年、我々は殺虫活性、溶血活性は示さないが、特定の哺乳動物細胞(がん細胞を含む)を選択的に認識し、破壊する新奇のBT毒素タンパク質を同定した。このタンパク質は、培養がん細胞に対して毒性が高く、細胞への特異性が高い。本研究ではこの毒素の細胞認識を決定している分子メカニズムを解析し、毒素受容システムの解明を中心に、以下の問題点について解析を進めた。 (1)細胞上に存在する受容体分子の同定 (2)細胞破壊の分子作用機序 (3)新規BT毒素の立体構造解析 この結果、(1)では、毒素結合タンパク質として、細胞表面に存在する脂質タンパク質の一つである分子量約25kDaのGPIアンカータンパク質とさらに45kDa、70kDaタンパク質を発見した。(2)に関して、この毒素は標的細胞膜の脂質ラフトに(おそらくGPIアンカータンパク質を経由して)結合し、毒素オリゴマーを形成することによって細胞膜に比較的大きな膜孔を形成している事がわかった。生化学的解析からこのオリゴマーは分子サイズ600〜1000kDaと大きく、超分子複合体を形成しているかもしれない。(3)では、産業総合研究所との共同研究で、この毒素のタンパク質の結晶構造を決定した。
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