CD160(BY55)レセプターは末梢血NK細胞(および細胞傷害性T細胞の一部)に発現し、NK細胞を活性化する。NK細胞活性化レセプター群の多くはそのリガンドが同定されていないが、最近CD160はホモ多量体を形成してMHCクラスI(MHCI)を認識することが細胞レベルで明らかにされた珍しいレセプターである。そこで、本研究ではCD160のMHCIに対する分子認識機構を機能(速度論及び熱力学)および立体構造解析(X線構造解析)の両面から分子レベルで明らかにすることにより、NK細胞の活性化機構を理解することを目的とする。 本年度は、封入体からの巻き戻し系を用いて、MHCIを認識する、結合活性をもったCD160多量体を調製することができた。このCD160多量体は、ヒトMHCIのHLA-Cw4に対する特異的な結合を示した。これはCD160がHLA-Cと結合し、T細胞やNK細胞に効果的に活性化シグナルを伝達するというこれまでの細胞を用いた実験結果と一致した。他方、HLA-Cw7には結合が見られず、HLA-Cアリル間でCD160に対する認識に違いがあることが示唆された。巻き戻しによって得られたCD160単量体に関しては、安定性が比較的良く、1次元NMRスペクトルも良好であった。結晶構造解析と平行してNMRによる立体構造解析も検討する。 しかしながら、このCD160多量体をゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーによって単一な多量体分子を単離することはこれまでのところ困難であり、大腸菌の分泌発現系を用いてもCD160分子を発現することができなかった。おそらく2個以上存在するフリーのシステイン残基が原因の一つであろうと考えられる。そこで、CD160分子の単一な多量体の大量調製のために、本来発現している哺乳類細胞(ヒト293細胞)を用いた発現系の構築を現在進めている。また、MHCIに対する特異性に関しては、本研究によってある程度明らかにすることができたが、哺乳類細胞の発現系により作製したCD160多量体を用いて、速度論的、熱力学的解析などの相互作用解析を行う予定である。
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