小胞体Ca^<2+>ポンプはATP分解に共役してCa^<2+>を小胞体内腔へ汲み上げ、細胞内Ca^<2+>動態を制御する。本分子の細胞質領域にはATPを結合するNドメイン、リン酸基を受け取りリン酸化中間体を形成するPドメイン、機能が不明なAドメインの3つから構成される。本研究の目的はこれら3つの細胞質ドメイン間の相互作用の実態と機能の解析である。 本年度はAドメインとPドメイン間の相互作用に注目して研究を実施した。 近年、研究代表者は、Aドメインの先端に存在するLys^<189>-Lys^<205>ループがCa^<2+>放出に必須であることを見出した。そこで、このループとPドメインの相互作用に焦点を絞り、このループとの相互作用に関わる可能性のあるPドメインの領域・残基を数十個推定した。これら残基の部位特異的変異体を作成し、変異体タンパク質をCOS-1細胞で発現し、ミクロソーム画分に回収してその酵素的性質を野生型のそれと比較検討した。 ATP分解能を調べたところ、多くの変異体で分解能の低下が見られ、中にはほとんどATP分解能を持たないものもあった。これらATP分解能が低下している変異体でもリン酸化中間体の形成量は野生型とあまり差が見られなかった。 更に、ATP分解能と共役して起こるCa^<2+>輸送サイクルの速度論的解析を行ったところ、幾つかの変異体ではリン酸化中間体の転移反応と加水分解の両方もしくはいずれかの速度が野生型と比較して非常に遅くなっていることを見出した。この性質はLys^<189>-Lys^<205>ループの部位特異変異体と共通している。 現在はCa^<2+>輸送サイクルの各ステップの反応速度について詳細に検討し、Lys^<189>-Lys^<205>ループの結合相手となるPドメイン側残基を特定しようとしている。
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