スフィンゴシン1リン酸(S1P)の核での生理機能を明らかにする目的で、まずS1Pを産生するスフィンゴシンキナーゼ2(SPHK2)の細胞内局在について詳細に検討した。われわれはこのSPHK2が核内でのS1P産生に重要であることを見いだし、すでに報告している。その結果、HEK293細胞においてSPHK2は主に細胞質に分布するが、細胞を血清飢餓状態におくと、SPHK2の局在が核にシフトすることを見いだした。この結果は、先にわれわれが報告した、SPHK2の核での局在がDNA合成の抑制をもたらすというモデルを考えると興味深い。すなわち、細胞が盛んに増殖する条件下ではSPHK2は細胞質に存在し、増殖を止める局面でSPHK2は核に移行して核での局所的なS1P濃度を増加させている可能性がある。 次にこの核移行のメカニズムについて検討した。これまでにわれわれはSPHK2の一次配列上に核移行シグナルを同定しているが、本研究において核排出シグナルの同定が進みつつある。この核排出シグナルと核移行シグナルとのバランスの上で、リン酸化のような修飾によって、SPHK2の細胞質-核のシャトルが起こっていると考えている。 核内で生成したS1Pのターゲットを推測する一つの手段として、リポータージーンアッセイを行った。その結果、SPHK2の過剰発現によっていくつかのリポータージーンの転写が促進していることがわかった。
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