1分子蛍光観察された軸糸ダイニンへのヌクレオチド安定結合について、その特性と生理的意義を明らかにするため、以下のような実験を行った。 まず本年度は、結合部位やダイニン断片について生化学的手法により手がかりを得た。21Sダイニンとそのサブフラグメント精製を行い、安定結合を観察したところB/IC(単頭ダイニン)やトリプシン処理断片(>100kDa)でも蛍光ADPの安定結合が見られ、ダイニンヘッド内で安定結合がおこっている可能性が高いことが示唆された。また定量的解析から安定結合は、加水分解速度より約1000倍も遅いことなどを明らかにした。 次に、観察された安定結合がダイニンの活性制御に関わっているかを調べるために、21Sダイニンによる微小管滑り運動を1mM ATP存在下で解析した。この結果、ADP濃度上昇に伴って運動の平均速度が分単位でゆっくりと上昇した。ADPをプレインキュベートした実験から速度上昇がADP安定結合時に起こっていること、さらには蛍光ADPでも同様の速度上昇が見られることを明らかにした。ここで21Sダイニンは蛍光ATPを加水分解するにも関わらず、蛍光ATPだけでは運動を引きこすことができない。この特性を利用してダイニン内の加水分解部位以外のヌクレオチド相互作用を解析することを試みた。この実験系では活性化因子であるADP安定結合があれば、蛍光ATP加水分解による運動が引き起こされると予想される。しかし、ADP安定結合によって活性化された状態でも、蛍光ATPによる運動は見られなかった。より生体に近い条件であるエラスターゼ処理軸糸の滑り運動においても同様に運動は引き起こされなかった。これらの結果は、ADP安定結合がダイニンの運動活性制御に関わっているものの、それだけでは十分でなく、さらにプラスアルファの制御因子が関わっていると考えられ、解析を進めているところである。
|