膜タンパク質の構築原理解明を最終的な目的として、代表的な基本構造である7本膜貫通ヘリックスをもつバクテリオロドプシン(bR)を対象に、本来機能の発現を誘導する可視光の照射が光退色という機能不全につながることが報告されているいくつかの非天然状態の構造・物性、およびバクテリオオプシン(bO)からの再生に関する研究を行った。非天然状態に関する研究では、高アルカリ領域の紫膜中のbR、合成脂質に再構成したbR、および界面活性剤により可溶化された状態のbRについて、構造・安定性を詳細に調べた。高アルカリ領域では、赤外、ラマン、可視円二色性の分光測定から、紫膜中のbRはpH10を境に、二次構造、発色団レチナールの異性化、三量体構造の崩壊が同時に起きることがわかった。また可視光照射により光退色が顕著に見られた。中性と同様に、アルカリ領域においても紫膜中のbRには安定性の異なる分子種が混在していることが示されたが、pH12ではその不均一性が観測されなくなった。人工脂質DMPCに再構成した場合は、25度付近の脂質膜の液晶相転移後は単量体として存在するにもかかわらず、光照射による退色は生じず、50℃付近まで安定であるという、興味深い知見を得た。Triton X-100により可溶化したbRでは、暗中では約50℃まで安定であるのに対し、光照射下では室温においても、ゆっくりとした光退色が見られた。bOとレチナールの混合による再生のkinetics測定からは、bO分子の構造揺らぎを利用したbRへの再生を強く示唆する結果が得られた。
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