タンパク質の構築原理解明を最終的な目的として、膜タンパク質の代表的な基本構造である7本膜貫通ヘリックスをもつバクテリオロドプシン(bR)を対象に、本来機能の発現を引き起こす可視光照射が、光退色という機能不全につながることが報告されている、非天然状態の構造・物性、およびバクテリオオプシン(bO)からの再生に関する研究を行ってきた。本年度は、非天然状態に関する研究では、中性リン脂質Dimyristoylphosphatidylcholine(DMPC)に再構成したbRについて、レーザーフラッシュフォトリシスを用いて光機能サイクルを調べた。脂質二重膜がゲル相にある5℃では、bRの光サイクルは天然紫膜に類似したものであったが、液晶相に相当する30℃では、中間体の生成、消滅に顕著な違いが見られた。特に、プロトン移動に関連する、タンパク質の大きな構造変化が予想されるM中間体において、興味深い挙動が見られた。今後のさらに精密な実験と解析により、合成脂質膜中にある非天然bRの光サイクルの特徴を明らかにすることが期待できる。 bOとレチナールの混合によるbR再生実験では、静電相互作用の遮蔽の影響を見るために、最終的な再生率および再生killeticsにおける塩(NaCl)濃度依存性を調べた。最終的な再生率は、いずれの塩濃度においてもほぼ一定であった。一方、再生の速度論的解析によると、いずれの場合も再生は2つの異なる速度成分で記述できるが、塩濃度の増加に伴い、遅い成分が増えることがわかった。遅い成分に対応すると考えられる、bO分子の構造揺らぎを考慮した解析を、現在さらに試みている。
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