研究課題
物性の異なる膜間で生じる「非対称」な膜融合は生体の物質輸送やウイルス感染などに見られる重要な現象である。本研究は、単純な組成の脂質二分子膜からなるリポソーム間膜融合をモデル系として解析することにより、特に膜融合におけるサイズ非対称性の意義を「物質の輸送」の視点から明らかにすることを目的とした。本年度は前年度に引き続き非対称膜融合のモデル実験系として、数10μmの巨大リポソーム(GUV)に対する、サブμmのリポソーム(LUV)の融合現象に関して(1)塩基性両親媒性ペプチドにより誘起される非対称融合における至適条件の検討(2)非対称融合による物質輸送デモンストレーションとしてのGUVマイクロリアクター内反応制御及び(3)膜融合におけるサイズ非対称性の生物学的意義の考察を試みた。脂質混和及び内水相混和のGUVとLUVの酸性リン脂質(DOPC:DOPG)組成及び両親媒性ペプチド濃度に対する依存性について表面電荷中和の観点から詳細に検討し(1)GUVの酸性リン脂質含有率をLUVよりも大きくすることで両親媒性ペプチドがGUV膜へ比較的多く分配され且つ(2)ペプチド正電荷の量を両リポソーム負電荷の総量より少なくすることで両リポソーム膜に電荷を残存する条件を設定することにより同サイズ間の融合よりも非対称融合が優性に誘起されることを明らかにした。更にβグルコシド誘導体蛍光基質を保持したGUVにβグルコシダーゼを封入したLUVを上記条件により融合させLUVからGUV内水相への酵素導入による反応開始に成功した。本研究よりサイズ非対称融合では、酸性リン脂質/塩基性ペプチドの量比によりキャリア(LUV)間の分散とGUV膜の一部とLUV膜との間の局所的相互作用がコントロールされ物質導入に有利な条件設定が可能となることが見出せ、この単純システムは生体における非対称な膜融合機構との本質的な共通点を類推させた。
すべて 2005
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IEEE Proceedings of the International Symposium on Micro-NanoMechatronics and Human Science, MHS 2005 Micro-Nano COE
ページ: 85-89