研究概要 |
細胞内の生化学反応に伴う、成分の濃度の時間的揺らぎに関する基礎的な理論を確立した。特に、シグナル伝達系においては、アロステリック反応など微小なシグナルを増幅するための化学反応が多数ある。本研究では、シグナルを増幅するための反応は不可避的に大きなノイズを生成することを理論的に示した。特に、(1)シグナルの増幅率と生成するゆらぎの分散の大きさの間には比例関係がある,また、(2)シグナルにノイズが含まれると、そのノイズも増幅される。ノイズの増幅率は、シグナルの増幅率とシグナルに含まれるノイズを平均化する作用の大きさの積で与えられる、ことを理論的に示した。これらの理論から得られる結果から、これまでの遺伝子発現に関するゆらぎの実験をうまく解釈することが出来る。 シグナル伝達系は通常、カスケードを形成している。ある反応で生成されたノイズはそのカスケードを伝達する。本研究の結果から、伝達されるノイズの特性時間はカスケードを伝達するにつれて長くなっていくことが分かる。従って、もしもカスケード全体で微小シグナルを増幅しているとすると、シグナル伝達系の最下流では上流から伝わるノイズによって遅い揺らぎが生まれていることが示唆された。この理論によって、最近のバクテリアのランダムな運動に関する実験をうまく説明することが出来る。 これらの結果から、アロステリック効果を含む反応などシグナル増幅率の大きい反応は、場合にっては大きなノイズを作るために使われていて、その結果、行動の多様性を生み出している可能性が示唆される。
|