多くの蛋白質ファミリーにおいて進化的に保存したすき間が存在する。リゾチームファミリーで保存してみられるすき間は、2つのドメイン間に2ヵ所ある。機能的に重要なものは進化的に保存されることから、それら保存性のあるすき間には、機能との関係があると考えられる。すなわち、すき間の存在が蛋白質の動的特性に影響を与え、機能発現に必要な動きを生み出しているのではないかと予想される。そこで、タンパク質内部の保存したすき間が果たす動的役割を知るために、保存したすき間をアミノ酸置換により埋めたときに運動性がどう変化するのか解析した。リゾチームの立体構造情報は数多くあるが、その中に保存したすき間を埋めるような変異体は存在しなかったため、まず、コンピュータグラフィックスと分子モデリングを用いて保存したすき間を埋める変異体を設計した。側鎖のサイズを大きくすることにより問題のすき間を埋め得るような部位が2ヵ所見つかった。既知の配列情報の中には、その部位にサイズの大きいアミノ酸が来る例は見当たらなく、すき間を埋めないための制約がかかっている部位であると示唆された。設計した、すき間を埋める変異体、および野生型について、それぞれ水溶液中における原子レベルの動きを分子動力学計算によりシミュレートした結果、予想に反し変異体の方により大きな運動性が現れ、主成分解析による第一振動モードの大きさの比較で約2倍異なっていた。ドメイン間の相対的運動については、その運動に対応する振動モードが両者に見られ、振動の大きさは同程度であった。一方、方向の対応しない、振幅の大きいモードが見られ、どのような動的特性のものであるかをさらに解析していくことが必要である。
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