リゾチームファミリーにおいて見いだされた進化的に保存されたタンパク質内部のすき間について、その機能的役割を明らかとすることを目指して、すき間のない変異体を計算機上で設計し、野生型との運動性の違いを分子動力学計算およびノーマルモード解析により解析した。 前年度実施の1ナノ秒の分子動力学計算の解析により、野生型と変異体との間で運動性の差が明確でなかったため、10ナノ秒までシミュレーションを続行して後半の5ナノ秒を解析に使用した。結果としては、部位ごとのゆらぎの大きさや部位間のゆらぎの相関について、顕著な違いは見られなかったが、100残基目辺りのループのゆらぎが変異体において2/3程度に減少した。主成分解析による第1〜3振動モードの大きさについても2/3程度に減少した。ドメイン問運動の特徴については大きな差は見られなかった。 平行して、分子動力学計算ほど計算時間を要せず、リゾチームのドメイン間相対運動の同定に実績のあるノーマルモード解析を実施した。野生型において、最大振幅のモードがドメイン間の開閉運動に対応し、次に大きい振幅のモードがドメイン間のねじれ運動に対応する。変異体においても同程度の大きさで同様のドメイン間運動が見られ、特にすき間を埋めることで運動性が制限されることはなかった。 リゾチームにおいて、側鎖のサイズの大きいアミノ酸に変異させることですき間を埋めうる部位は2カ所しかなく、そのどちらの部位においても、既知の野生型配列では側鎖のサイズの小さいアミノ酸のみで占められていることを本研究の過程で見いだした。進化的にすき間を保持する制約がかかっていることが示唆され、今回注目した運動性とは別の何らかの役割をすき間が担っていると思われる。
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