ヒトの疾患やマウスの解析を用いた遺伝学的解析によってWT1、SOX9、GATA4、Ad4BP/SF-1、DAX-1などの転写因子が、生殖腺の分化に必須であることが明らかになっている。近年、発生分化過程においては、不要な遺伝子の安定な抑制は、クロマチン構造の変化を伴った転写制御が関与することが多数報告されている。特にピストンやゲノムDNAの修飾によって細胞の運命をクロマチン上に情報を残すこと、すなわちエピジェネティックな制御によって、分化状態を維持していることが明らかとなってきている。これらの知見からDAX-1がクロマチン構造を介した抑制機構によって性分化を制御していると予想された。申請者はDAX-1による転写抑制の分子機構を明らかにするために、DAX-1の核内、細胞質内複合体をそれぞれ精製し、その構成因子の同定を行なうことが重要であると考えた。その結果、核内、細胞質内におけるそれぞれの複合体の構成因子が異なることを見いだし、DAX-1の局在によって異なる調節機能を有することが予想された。特に細胞質複合体内には分子シャペロンと細胞質骨格構成因子が含まれていたが、これらDAX-1と結合する因子は、同じ核内レプターファミリーに属しリガンド依存的に核に移行するグルココルチコイドレセプター(GR)との相互作用が知られている。そしてGRの細胞質保持およびリガンド応答にはこれら因子との相互作用が重要であることが既に明らかとなっている。このことからも、本研究によってリガンド未同定なDAX-1もリガンド様のシグナルを受けることで、細胞質、核への移行を制御されている可能性が示唆された。さらに、ヒトの疾患の中では、DAX-1が核へ移行できない変異があり、この変異と複合体の形成の相関について解析することで、疾患の原因のみならず、DAX-1の制御シグナルの同定に発展すると考えられる。
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