研究概要 |
マウスES細胞における未分化状態維持に必須の因子として転写因子Oct-3/4が知られており、本研究は新規Oct-3/4コファクターの単離を狙ったものである。前年度までに開発した改変型免疫沈降法によってさらに大規模に解析を行い、コファクターの単離を狙った。解析の結果、Oct3/4と相互作用するとみられるタンパク質NEDD4を同定している。NEDD4は様々なタンパク質の量をユビキチン化によって調節しており、神経初期発生に重要な役割を果たしていると考えられている。興味深いことに、NEDD4の発現はES細胞の分化に伴って速やかに低下することを最近見出している。NEDD4ノックアウトES細胞では分化誘導後に細胞死を引き起こすことが確認され、この表現型はNEDD4発現ベクターを導入することでレスキューされた。このことはNEDD4が分化進行過程に置いて必要となる分子であることを示唆する。また、誘導的ノックアウトES細胞の円滑な樹立を意図し、遺伝子改変ES細胞の高効率作成法を開発した(Nucleic Acids Res., 2005)。 一方、既知コファクターの機能解析としてSox2の誘導的ノックアウトES細胞を樹立し、これを用いた解析を行った。その結果、Sox2の主要な役割はそれまで信じられていたOct3/4との協同による下流遺伝子の発現制御ではなく、直接または間接的なOct3/4の発現維持であることがわかった。一方、Oct3/4新規コファクターとして未知Sox因子の関与を明らかとした(第38回日本発生生物学会年会2005年)。この成果は、未分化性維持に必要な転写因子を誘導的にノックアウトする技術によって(この技術は極めて高度であるため、世界でも丹羽仁史と升井伸治しか成功していない)、未分化性維持転写因子ネットワークの構造へ向かって垂直に切り込んだものであり、他の研究とは一線を画する。
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