本研究ではまず、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)による全細胞タンパク質からのリン酸化タンパク質の濃縮・精製法を開発した。さらにIMACと蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE : two-dimensional difference gel electrophoresis)技術を併用することにより、従来プロテオーム解析による検出が困難とされてきた、微量なシグナル伝達因子のリン酸化による変動を高感度かつ定量的に検出できることを示した。そこで活性型B-Rafをエストロゲン受容体との融合タンパク質として発現しているNIH3T3細胞を用いて、Raf-MEK-ERK経路に位置するリン酸化タンパク質を網羅的に検出し、MALDI-TOF型質量分析計でPMF解析を行った。その結果これまでに32種類のタンパク質の同定に成功し、その中にはMEK1/2やERK1/2と共にRSK2、cPLA2、caldesmon、cortactin、vinexin、hnRNP K、eIF4Eなどの既知のERK基質が10種類含まれていた。残る18種類は新規ERK基質候補と考えられた。この中の6種類に対する特異抗体を用いて、ERK経路を選択的に活性化または抑制したリン酸化タンパク質画分を別々に二次元電気泳動してイムノブロットしたところ、PMF解析で同定されたスポットの位置において各抗体との反応性が確かにERK活性化によって増加していた。さらにこの6種類を含めた幾つかをGSTとの融合タンパク質として大腸菌から精製したところ、in vitroにて活性型ERK2によって顕著にリン酸化された。そしてリン酸化基質の質量分析計を用いた解析とアラニン残基への点変異の導入により、各々のリン酸化部位を決定した。現在これら新規ERK基質の生理機能とそのERK依存的制御を解析中である。
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