本研究では、様々な細胞内シグナル伝達で鍵となるプロテインキナーゼであるERKとROCKをモデル系とし、その細胞内基質群を網羅的に同定するための新たなリン酸化プロテオーム解析法を開発して、得られた新規基質のリン酸化による機能制御を解明することを目標としている。これまでに、IMACによる全タンパク質からのリン酸化タンパク質の精製法と蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)技術を併用することにより、ERK/MAPキナーゼ経路に位置するリン酸化タンパク質を33種類同定することに成功した。本年度は特に、この中に含まれていた核膜孔複合体の構成因子(ヌクレオポリン)の一つであるNup50と細胞質ダイニンの中間鎖CDIC2に注目し、これらが新規ERK基質かどうか検討した後、その生理的意義を明らかにすることを目的とした。GST融合タンパク質として精製したNup50もCDIC2も活性型ERK2によりin vitroで強くリン酸化されたため、ESI-IT型質量分析計を用いた解析とアラニン残基への点変異の導入によって各々のリン酸化部位を同定した。そして各々の部位に対する抗リン酸化抗体を作製することにより、Nup50とCDIC2が細胞内でERK活性化に依存してリン酸化されることを示した。Nup50はN末端ドメイン(importin-αと結合)、中央のFGリピートドメイン(importin-βと結合)、C末端のRan結合ドメインから構成されるが、ERKによるリン酸化部位はFGリピートドメインに集中していた。そこでimportin-βに対するpull-downアッセイを行ったところ、ERKでリン酸化されたNup50ではimportin-βとの結合が減弱することが判明した。従ってimportin-α/β依存的な核内輸送がERKによるヌクレオポリンのリン酸化で制御される可能性が示唆された。
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