細胞膜上に発現するプロテアーゼMT1-MMPはヒトがん細胞で高発現し、細胞外マトリックスの分解を介して細胞運動や浸潤を制御している。本研究では、MT1-MMPの細胞内ドメインに結合する新規因子MTCBP-1の機能を解析した。がん細胞にMTCBP-1を過剰発現すると、MT1-MMPが仲介する細胞運動と浸潤が抑制された。またMTCBP-1は正常細胞に比べ、がん細胞で発現の低下が認められた(以上上北ら、2004 JBC)。これらからMTCBP-1はMT1-MMPの負の調節因子であることが示唆された。一方MTCBP-1は細菌のメチオニン代謝酵素ARDと相同性を示し、ARDのヒトホモログである可能性が考えらた。MTCBP-1がARD活性を有するかどうか、出芽酵母の実験系を用いて検討した。出芽酵母のARDホモログの遺伝子破壊株はメチオニン代謝異常を示し、MTCBP-1の導入はそれを相補した(以上平野ら、2005 Genes Cells)。これらからMTCBP-1はARD活性をもち、ヒトの細胞でもARDとして機能する可能性が考えられた。さらにMTCBP-1は核内でも検出され、核内マイクロドメインにおいてmRNAスプライシングの調節因子U1-70Kと共局在した。またMTCBP-1の過剰発現はmRNAの選択的スプライシングを誘起した(以上後藤ら、投稿中)。これらからMTCBP-1は核内において、mRNAスプライシングを調節することが示唆された。以上の研究から、MTCBP-1/ヒトARDは複数の細胞内区画(細胞膜付近、細胞質ゾル、核内マイクロドメイン)において異なる作用を発揮する多機能性因子であることが考えられた。各機能相互の関係や、MTCBP-1がMT1-MMPの信号伝達因子として機能する可能性について引続き検討している。
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