遊走中のリンパ球には前後軸に沿って非常に明確な細胞極性が形成されるが、その極性形成の分子メカニズムは明らかにされていない。特に細胞後方にはユーロポッドという特徴的な半球状の構造体が一つだけ形成され、細胞極性の成立に深く関わっている可能性が高いが、その構造の分子基盤についてもこれまで詳しくは解析されていなかった。ユーロポッドにはEzrinと呼ばれる細胞膜-骨格架橋タンパクとそれに結合するCD44といった膜タンパクが集積し、ユーロポッド分子複合体の一部を成していることから、これらの分子が解析の手掛かりになるとと考えられる。 我々はGFPを融合したEzrinの様々な変異体の発現ベクターを作製し、恒常的にユーロポッドを形成するEL4.G8リンパ腫細胞を用いて、Ezrinの細胞内局在とユーロポッド形成との関わりを検討した。EzrinはC末端のスレオニン残基のリン酸化により不活性型/活性型が制御され特にリン酸化型が膜-骨格架橋機能を有するが、擬似リン酸化型変異Ezrinはユーロポッドに限局して存在し、発現細胞はユーロポッドが肥大したほか細胞遊走能が増加した。一方、非リン酸化型は細胞質に均一に存在したほか、野生型はユーロポッドに集積は見られるもののともに形質への影響はほとんど認められなかった。セリン/スレオニンリン酸化酵素の阻害剤であるスタウロスポリンはEL4.G8細胞のユーロポッドを破壊し、Ezrinの局在を阻害する。擬似リン酸化型Ezrin発現細胞ではスタウロスポリン処理によってユーロポッドは消失するが、CD44-Ezrin複合体が半球状に局在し細胞膜極性が保たれていた。また、この現象はアクチン結合能を欠損した擬似リン酸化型やアクチン細胞骨格を破壊するサイトカラシン処理では見られなかったことから、アクチン細胞骨格に依存していると考えられる。以上のことから、Ezrinのリン酸化による膜-骨格架橋機能がリンパ球の細胞極性とユーロポッド形成に重要な役割を担っていることが示唆された。
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