遊走中のリンパ球においては前後軸に沿って非常に明確な細胞極性が形成されるが、その極性形成の分子メカニズムは明らかにされていない。特に細胞後方にユーロポッドという特徴的な半球状の構造体が一つだけ形成され、細胞極性の成立に深く関わっている可能性が高いが、その構造の分子基盤についてもこれまで詳しくは解析されていなかった。ユーロポッドにはEzrinと呼ばれる細胞膜-骨格架橋タンパクとそれに結合するCD44といった膜タンパクが集積し、ユーロポッド分子複合体の一部を成していることから、これらの分子が解析の手掛かりになるとと考えられる。 恒常的にユーロポッドを形成するEL4.G8リンパ腫細胞を用いて、Ezrinの細胞内局在とユーロポッド形成との関わりを検討した。EzrinはC末端のスレオニン残基のリン酸化により不活性型/活性型が制御され特にリン酸化型が膜-骨格架橋機能を有するが、擬似リン酸化型変異T567DEzrinはユーロポッドに限局して存在し、発現細胞はユーロポッドが肥大したほか細胞遊走能が増加した。一方、効果的な細胞遊走が起るためには、細胞体の後方が連続的に収縮する必要がある。一般的に、細胞収縮にはRhoGTPaseとその下流のキナーゼROCKが重要であることが知られているが、ドミナントネガティブT19NRhoの過剰発現やROCKの阻害剤Y27632処理はEL4.G8細胞のユーロポッドを破壊し、細胞遊走を阻害した。また、Rho活性化因子Dblはリン酸化型Ezrinに選択的に結合し、Rho活性可能を示した。以上のことから、Ezrinのリン酸化による膜-骨格架橋機能およびRho-ROCKシグナル伝達経路との連携がリンパ球の細胞極性とユーロポッド形成に重要な役割を担っていることが示唆された。
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