本研究は細胞膜に結合しているNotch1からその細胞内ドメインが切り出された後、どのような輸送経路によって核へ輸送されるのかを分子レベルで解明することを目的としている。Notch1の細胞内ドメインを種々の長さに削った変異体を作製し動物細胞に導入すると核移行活性が低下する変異体が複数得られた。これらに共通する欠損領域はN末端部分であった。Notch1の組み換え体を調製し、無細胞核輸送実験系において輸送活性を検討すると、Notch1はimportin α/βのシステムによって核へ輸送されることが判明した。また、in vitroにおいてNotch1細胞内ドメインはimportin αと結合できるのに対し、N末端領域を欠いたNotch1はimportin αと結合できなかった。さらに、N末端領域にはimportin αとの結合モチーフと類似性のある塩基性アミノ酸のクラスターが3カ所存在しているが、それらをGST-GFPの融合タンパク質に結合させたものの核移行活性を検討することにより最もN末端側に位置する塩基性アミノ酸クラスターが核移行シグナルとして機能することが明らかとなった。これらの結果から、当初の目的の一つであるNotch1細胞内ドメインの核移行経路を分子レベルで解明できたといえる。興味深いことに、Notch1細胞内ドメインはN末端領域を欠失させても、細胞質抽出液存在下で核への移行活性を少ないながら保持していた。このことはNotch1の細胞内ドメインにはN末端領域以外に核移行を担う領域があることを示唆している。さらなる欠失変異体の解析から、N末端領域以外にも少なくとも2カ所の領域が核移行を促進していることがわかり、現在これらの領域に結合する因子の同定を進めている。
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