カルシウムイオン(Ca^<2+>)は、真核生物細胞におけるシグナルメディエーターとして、広範な細胞機能の調節に関わっている。我々は、Ca^<2+>情報伝達経路による細胞周期制御を発見し、Swe1キナーゼの活性調節をとおして、有糸分裂開始を阻害する、チェックポイント機構であると提唱した。さらにCa^<2+>による細胞周期制御に関与する新たな分子を見出すため、この経路に欠陥のある変異株を取得し、順次解析を行っている。本研究では、出芽酵母を真核生物のモデル系として用い、Ca^<2+>シグナル情報伝達経路による細胞周期調節因子のタンパク安定性(分解および修飾)に注目し、これに関与する分子の同定および機能を明らかにすることを目的とした。 本研究では、Swe1やG1サイクリンCln2が高蓄積するzsd1破壊株を用いた。zds1破壊株は、高濃度Ca^<2+>を含む培地ではCa^<2+>シグナル経路が活性化され、その結果、Swe1やCln2が高蓄積し、Ca^<2+>感受性の表現型を示す。そこで、この表現型を利用して、遺伝子量の増加によりCa^<2+>耐性を付与するサプレッサーのスクリーニングを行うことにした。その結果、取得が予想されたZDS1およびそのホモログZDS2やその他少なくとも17種類の遺伝子がこの機構に関与することが明らかになった。取得遺伝子には、Mih1ホスファターゼ(Cdc28/Clb活性化因子)やERやゴルジ体へのCa^<2+>輸送を通し、Ca^<2+>ホメオスタシスに関与するトランスポーターなど、予想された分子が取得された。また、カルシニューリン活性を阻害するRcn1やMpk1活性を阻害するMsg5ホスファターゼも取得され、スクリーニング系がうまく機能したと考えられた。興味深いことに、酸化ストレス応答に重要な機能を持つAP-1様転写因子をコードするYap1が取得された。そこで、Ca^<2+>シグナル伝達におけるYap1の機能を調べたところ、Yap1はカルシニューリンによる脱リン酸化を経て分解され、Yap1の制御を受けるユビキチン・プロテアソーム活性が低下し、Swe1やCln2の安定化を誘導することを見出した。
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