細胞質から核内への蛋白質輸送システムは、転写や複製などの核機能を保つために必須であるばかりでなく、細胞内情報(シグナル)伝達においても重要な役割と果たしている。本研究者は自らが作製したモノクローナル抗体を用いて、中枢神経細胞における核蛋白質輸送因子importin-αファミリーの発現量を詳細に調べたところ、他の組織では比較的多く発現しているimportin-α1、α3、α4がわずかしか発現しておらず、かわりにimportin-α5が多く発現していることを見いだした。さらに、細胞外からの高濃度のカリウム刺激によって細胞膜の脱分極(神経細胞の興奮)を引き起こすと、神経細胞内のimportin-α5が細胞質から核内へ速やかに移行することを明らかにした。この現象を詳細に解析するため、神経細胞の興奮に伴ったimportin-α5の細胞質から核内への移行を生きた細胞を使ってリアルタイムで観察する系を確立することを試みた。具体的には、ラット海馬由来神経細胞の初代培養を用い、緑色蛍光蛋白であるGFPとimportin-α5との融合蛋白質を培養神経細胞に強制発現させ、蛍光顕微鏡を用いて神経細胞内のimportin-α5の挙動をGFPの蛍光を観察することで追跡した。また、初代培養神経細胞へのGFP-importin-α5融合蛋白質を強制発現させるためのプラスミドベクターの導入にはマイクロインジェクション法を用いた。この系を用いて高カリウム刺激により引き起こされた神経細胞膜の脱分極に伴うimportin-α5の核内移行を詳細に観察したところ、樹状突起スパイン(後シナプス部)や核膜上に一時importin-α5が滞留している像が観察された。これは神経細胞の興奮に伴ったシナプスから核へシグナル伝達にimportin-α5が関与していることを強く示唆する。
|