研究概要 |
核タンパク質輸送機構の解析はこれまで主にその基本的なメカニズムについて研究されてきた。一方、各組織や発生・分化段階における核タンパク質輸送の研究はほとんど行われていない。本研究は神経細胞を用いて解析を行い、組織の形成や分化過程での核タンパク輸送の役割を明らかにすることを目的としている。主に核タンパク質輸送因子importinについてこれまで研究を行ってきたが、本年度はそれに加え新たに神経細胞における核膜孔複合体の動態について調べた.具体的にはまず、核膜孔複合体構成タンパク質のうち、その重要性が報告されているNup62,Nup98,Nup153のリコンビナントタンパク質を大腸菌で発現、精製した。そしてそれらを抗原として、最近開発されたラット腸骨リンパ節法を用いて各構成タンパク質特異的なモノクローナル抗体の作製を行った。核膜孔構成タンパク質はFGリピートなど共通の機能ドメインを持つため、特異的な抗体の作製は難しいとされたきたが、本研究ではさまざまな工夫を施すことで各タンパク質に特異的な抗体を作製することに成功した。樹立した抗体はELISA、ウエスタンブロッティング、免疫染色はもちろんのこと、マイクロインジェクションにも使用できる大変優れたものであった。 マウス胎児大脳皮質由来の培養神経幹細胞およびそれから分化させたニューロンやグリア細胞における核膜孔複合体の動態を抗体を用いて調べたところ、神経細胞では未分化状態から分化状態への移行に伴って極端に核膜孔数が減少することが明らかになった。また、個々の核膜孔複合体で、それを構成するタンパク質が異なることを示唆するデータを得た。この知見は核膜孔複合体はすべて同じタンパク質で構成され同一の構造をしているというこれまでの定説を覆すものである。
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