1.誘導における応答能の制御 マボヤ脊索誘導において、FGFシグナルに対する応答能を制御している内在性の因子を同定するために、誘導される側の細胞であらかじめ発現している転写因子が、FGFと協調して異所的に脊索を作り出せるか否かを調べた。その結果、FoxA注入胚において異所的な脊索特異的brachyury遺伝子の発現を生じ、この異所的な発現には、FGFシグナルおよびその下流因子であるZicNの機能を必要とすることがわかった。したがって、FoxAとZicNの両者が応答能を制御する内在性因子として働き、細胞外からのFGFシグナルと協調して脊索を形成することが示唆された。 brachyury遺伝子の転写調節領域の解析では、2つのエンハンサー領域(-598 bp/-499 bp領域と-398bp/-300 bp領域)を同定した。-598 bp/-499 bp領域のエンハンサー活性は、FGFシグナルに依存することを明らかにし、この領域上の3箇所にFGFシグナルの下流転写因子Etsが結合することがわかった。-398bp/-300 bp領域上には、応答能因子であるZicNとFoxAの予想結合配列が存在し、ZicNについては強い結合が、FoxAについては微弱ながら結合を観察した。また、EtsとZicNの結合配列にそれぞれ変異を導入するとエンハンサー活性は弱まったが、FoxAに関しては変化が認められなかった。FoxAがどのようにbrachyury遺伝子の活性化に寄与するのかは次年度以降の課題である。 2.誘導により引き起こされる非対称分裂の解析 32細胞期胚の予定脊索/神経索割球は、FGFシグナルに応答して、脊索割球と神経索割球に非対称分裂を行う。この非対称分裂において、FGFの作用する方向が予定脊索/神経索細胞の非対称分裂の方向性を決定するのに重要か否かを調べたところ、FGFが作用する方向に加えて、反対側から作用する抑制シグナルにより、将来神経索細胞になる娘細胞が脊索にならないよう保証することが重要であることが示唆された。さらなる解析の結果、この抑制シグナルは、内在性応答能因子の一つであるFoxAの発現を神経索系列で抑制していることがわかった。
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