動物の卵形成において、多くの遺伝子が母性発現をし、その産物が母性因子としてmRNAやタンパク質の形で卵細胞質中に蓄えられる。我々は、脊椎動物の初期発生過程に重要な役割を持つ母性因子を研究することを目的とし、ゼブラフィッシュ母性効果変異体のスクリーニングを行った。その結果、新規母性変異体bobtailを単離し、解析した。bobtailは、劣性母性効果変異であり、ホモ2倍体雌成魚由来の胚が、尾芽の著しい伸長異常を示す。この突然変異のポジショナルクローニングを行ったところ、Molybdenum cofactor synthesis step-1 (MOCS1)遺伝子のコード領域中に点突然変異を見いだした。MOCS1のmRNAの微量注入によりbobtailの表現型が完全に回復することから、MOCS1がbobtailの原因遺伝子と考えられた。人では、MOCS1はmolybdenum cofactor deficiencyという遺伝病の責任遺伝子として知られている。また、MOCS1のタンパク質産物はモリブデン補酵素合成の最初のステップ、すなわちGTPのcyclic pyranopterin monophosphate (cPMP)への変換を触媒する。cPMPを1細胞期に微量注入すると、bobtailの表現型が完全に回復することから、bobtailの異常はcPMP生合成の欠失によるものと考えられた。さらに我々は、Fgfシグナルによって活性化されることが知られるERKタンパク質のリン酸化状態がbobtailでは著しく低下していることを見いだした。このことはMOCS1の活性がERKの活性化に必要であることを示している。以上、母性効果変異体bobtailを用いた解析から、脊椎動物胴尾部発生における、モリブデン補酵素生合成とFgf/ERKシグナル経路との分子的関わり合いが新たに明らかとなった。
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