中胚葉誘導は脊椎動物の発生過程において最初に見られる誘導現象であり、その後の形態形成に必須である。中胚葉誘導は時空間的に特異的に起こることが知られているが、その分子機構についてはまだ十分には理解されていない。そこで、中胚葉特異的遺伝子であるntlの発現パターンに異常を示すゼブラフィッシュ突然変異体を用いて、この問題に取り組んでいる。 筆者らが既に単離しているkt541とkt658は、神経胚期に予定中脳・後脳境界部で異所的にntl遺伝子を発現する。同時に胚盤が卵黄を包み込むエピボリー現象が完了しないという異常を示すが、この表現型の強さと頻度に大きなばらつきが見られたことから、母性効果と発生温度が表現型に与える影響について検討した。その結果、kt541とkt658のどちらの変異も個体によって浸透度にばらつきはあるが、メスがヘテロの場合はオスの遺伝子型に関わらず異常が出ることから優性の母性効果を持つことが明らかになった。さらに、23.5℃と31.5℃では異常を示す胚が多いのに対して、27.5℃では少ないことから、温度感受性を示すことも明らかになった。kt541変異体の温度感受性を利用して、この原因遺伝子が胚発生過程のどの時期に働いているかを検討したところ、中期胞胚変移が起こるとされている512細胞期から1024細胞期にかけて機能していることが明らかになった。以上の表現型解析に加えて、変異体の原因遺伝子を同定するための準備を行った。変異部位と密接に連鎖するDNAマーカーを同定するために、kt541変異体と多くの多型を持つ別系統のゼブラフィッシュとを数世代にわたって交配し、変異部位近傍以外が別系統に組み変わった集団を確立した。この集団を用いて変異部位の遺伝学的マッピングを行なう。
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