前後軸・背腹軸における網膜視蓋投射は、それぞれ独立に決定されると考えられてきた。しかしながらBMP中和分子Ventroptinが発生初期網膜においてBMP-4の、発生後期においてはBMP-2の活性を調節することにより背腹・前後両軸方向における網膜視蓋投射を制御することを我々は明らかにしている。BMP-4、BMP-2は共にVentroptinと相補的に発現しているが、BMP-4が発生初期に背側で発現しており、その後消失していくのに対し、BMP-2は発生後期に背後側で発現し、この時期は腹前側で発現するVentroptinと同様に2重勾配を示す。 本研究課題では発生後期における網膜視蓋投射制御機構を解析するためRNAiを用いた特異的遺伝子発現抑制系や薬剤による時期特異的発現誘導系を開発し、BMP-2の発現レベルを変化させ、その影響を検討した。その結果、Tbx5、cVax、ephrin-B1、EphB2といった背腹軸における領域特異的分子すべてと、前後軸において領域特異的に発現することが知られているephrin-A2がBMP-2の支配下にあることが判明した。また、これらのBMP-2支配下の領域特異的分子はすべてBMP-2やVentroptinと同様に発生後期網膜において二重勾配を持って発現していることも明らかとなった。さらにBMP-2の発現を抑制した場合や二重勾配分子であるephrin-A2を異所的に発現させた場合に、Ventroptinを過剰発現させた場合と同様に、背腹・前後両軸方向における網膜視蓋投射に異常が生じた。以上の結果より、BMP-4からBMP-2への切り替えにより背腹軸そのものが傾斜し、これにより背腹・前後両軸方向における網膜視蓋投射が制御されていると考えられる。また移植実験から背腹軸方向における網膜内の領域特異性は発生初期に決定し、その後不可逆であるとされていたが、以上の結果は発生後期も網膜内の細胞は可塑性を有しており、BMP-2が背腹軸方向における領域特異性の維持に不可欠であることも示している。
|