非対称分裂は多様な細胞を作り出す為の重要な過程であり、細胞内因子等の非対称性な局在を利用して2つの異なる娘細胞を生じる。典型的な非対称分裂を行うショウジョウバエの神経幹細胞の場合、細胞運命決定因子が非対称に局在し、分裂方向がその局在と一致する事により選択的に神経母細胞に分配され、正しい運命の神経細胞が生み出される。この過程は神経幹細胞のアピカル側に局在する因子によって主に制御されている。以前の我々の研究により、神経幹細胞や胚上皮細胞の分裂方向がアピカル局在因子であるPinsと三量体G蛋白質αiサブユニット(Gαi)を介した共通のメカニズムで制御されている事が示唆された。これらの細胞では、分裂方向とPins/Gαiの局在は常に一致し、変異体では分裂方向の異常が見られる事から、Pins/Gαi複合体は何らかの因子を介して紡錘体極を自身の方向へ引き寄せる機能を持つと考えられた。この因子を同定する為にショウジョウバエの胚からPinsの免疫沈降を行った所、分子量200k以上のcoiled-coil構造を持つ蛋白質の共沈降を検出した。この蛋白質の特異抗体を作製しその局在を調べた所、PinsやGαiと同様に神経幹細胞のアピカル側細胞膜表層に局在すると共に、中心体にも局在している事が判明した。この事より、アピカル側細胞膜表層においてPins/Gαi複合体と相互作用する事により、神経幹細胞の紡錘体の方向を規定している可能性が考えられた。この蛋白質の変異体の神経幹細胞を観察した所、分裂方向の異常を示した事から、この仮説が強く支持された。この蛋白質の細胞膜表層での局在はPins/Gαiに依存している事から、神経幹細胞や胚上皮細胞の分裂方向を規定するためにPins/Gαiはこの蛋白質の細胞膜表層の特定の領域への局在を誘導し、紡錘体の方向を制御しているものと考えられる。
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