平成17年度は、前年度に確立した骨格筋可視化メダカ系統(野生型、Da変異体)を用いて、Daの原因遺伝子であるZic1の強制発現実験を行うとともに、in situハイブリダイゼーションを用いて初期発生に働く遺伝子の発現パターンを調べた。硬節(sclerotome)のマーカーであるtwistは、野生型では体節の腹側で発現が始まり背側へと発現領域を広げるが、Da変異体では次第に発現が弱まってしまい、背側で発現することはなかった。また、Shh(ソニックヘッジホッグ)カスケードの阻害剤であるシクロパミンで野生型あるいはDa胚を処理すると、筋節の発生が異常になり、水平筋中隔が欠失、すなわち軸上・軸下の境界が失われた。しかしどちらの系統においても、対鰭には正常な筋芽細胞の移動が見られた。すなわち、対鰭に移動する特殊化した軸下筋は、軸上・軸下の区別がない状態でもアイデンティティを獲得できることがわかった。 軸上・軸下の区別を持たない無顎類ヤツメウナギからZic遺伝子群を含む複数の筋肉発生関連遺伝子を単離し発現パターンを解析した。ヤツメウナギZic遺伝子は前脳などの中枢神経系に強く発現しているほか、体節の背側にも発現が見られた。また顎口類において軸下筋の発生に重要なPax3遺伝子、およびPax3に制御され四肢などに移動する軸下筋のグループのマーカーとして知られるLbx1遺伝子は、ヤツメウナギの体節の腹側の辺縁部および鰓下筋に発現していた。このことはヤツメウナギにおいて筋節の腹側に移動性の筋芽細胞をもたらす遺伝子カスケードがすでに存在しており、それが最初に機能していたのは鰓下筋(顎口類の舌筋に相同)である可能性を示唆する。
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