研究概要 |
ヤマトシロアリ・コウシュンシロアリ・オオシロアリよりそれぞれ約1000クローンのランダムEST取得を行った。得られた配列をFASTXにて解析した結果、GHF5,7,10,11,45より成る、一定の糖質加水分解酵素群(GHFs)が共通してこれらのシロアリの共生原生生物で発現していることが明らかとなった。 分子系統学的な解析の結果、これらのうちGHF5,10および11に関して、取得された原生生物由来のGHFsホモログ配列が、バクテリアの同遺伝子のクラスターの内部に位置するという現象が認められた。このことは、これらの3種の遺伝子が、バクテリアより水平伝播してきた可能性を強く示唆する。 これらの配列より得られた系統樹は、現在高い支持率が必ずしも得られていないものの、そのトポロジーより考えて、各遺伝子の水平伝播は少なくともこれらのシロアリの共通祖先の段階で起こった可能性が考えられる。これは、水平伝播はどちらかといえば高頻度で日和見的な現象というよりは、少なくともその結果起こる遺伝子の固定の頻度は低く、伝播先の生物の生存に対して正の効果をもたらすときにのみ遺伝子の保持が起こる可能性を考えさせる。 しかし、現状では必ずしもデータが十分であるとは言えないため、来年度の研究においては、さらにムカシシロアリ、キゴキブリの二種類の昆虫の共生原生生物群を検討対象に加え、さらに検索と解析を行ってから最終的な考察とパブリケーションを行う。これらの昆虫はシロアリの類縁昆虫の中でも最も原始的な科に属し、これらを加えることによって水平伝播の時期や頻度をより正確に検討することが可能である。
|