研究課題
本年度は、ヤマトシロアリ、コウシュンシロアリ、オオシロアリ、ムカシシロアリ、キゴキブリより得られた配列の全長を網羅的に決定し、それらを用いて更に詳細な分子系統学的解析を行った。腸内原生生物の配列のうち、糖質加水分解酵素ファミリー(GHF)5および10について実際に水平伝播が起こっていることを確認した。水平伝播の起こった時期については、系統樹のトポロジーを精査した結果、全てのシロアリの共生原生生物配列が独立した単系統のクラスターを形成していることから、共生系の成立したごく初期に起きたことが示された。また、GHF5においては、そのような単系統クラスターが異なる2つのサブファミリーで見いだされたことから、シロアリ共生系の進化初期に発生した水平伝播の現象は、少なくとも独立して複数回起こっていたことが示された。また、これらの遺伝子が実際にどの原生生物に由来するかを確認するためにマイクロマニピュレータとRT-PCRを組み合わせた手法による解析を実施したところ、シロアリ腸内に棲息する二つのタイプの原生生物ParabasaliaとOxymonadsに属する原生生物双方より水平伝播したと考えられるGHF5遺伝子の存在が確認された。このことは、共生系進化の初期に起きた水平伝播は原生生物の系統的な違いを超えて、全共生原生生物に共通して起きた現象であることが示された。これらを総合すると、水平伝播は日常的に起きている可能性があるが、このような共生系の進化に当たっては、進化のごく初期の日和見的な共生時に起きた水平伝播のうち、共生系に利益をもたらすものが早期に固定され、その後の進化を通じて保守的に保存されるという可能性が示唆された。
すべて 2007
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FEMS Microbiology Ecology 59
ページ: 592