本研究の目的は、ヒトの言語にみられる「規則性」の使用が野生チンパンジーの身ぶり連関にも見られることを明らかにし、その萌芽的規則のあり方を具体的に記述することにある。チンパンジーでは音声的コミュニケーションよりもむしろ、微細な身ぶりによるコミュニケーションのほうが突出している。 本研究の対象は、タンザニア共和国西部、タンガニイカ湖東岸にあるマハレ山塊国立公園に生息する野生チンパンジーMグループである。このグループには、約60頭のチンパンジー個体がおり、全個体に名前がつけられ識別されており、人間の観察者に慣れている。 平成16年度には、研究代表者がこれまでにマハレMグループを対象として撮影・蓄積したDVビデオデータをもとに、この中から社会的に用いられると考えられる微細な身ぶり(たとえば、毛づくろい開始をうながす身ぶりなど)をピックアップし、予備的なエソグラムの作成をおこなった。オリジナルのDVビデオデータは、身ぶり連関解析のために撮影されたものではないが、この作業で野生のチンパンジーが用いている身ぶりの種類、生起頻度などを予備的に確認することが可能となる。これは、次年度以降の野外調査で身ぶり連関をシステマティックに調べる際の基礎データとなるものである。 ここまでで得られた予備的結果は、学会・研究会等の折に各方面の専門家と議論をおこない、それらの意見を取り入れて軌道の微修正をおこなった。また、本研究と関連の深い諸研究のレヴュー、および関連著作の書評等の執筆をおこなった。
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