Pan属の二種、コモンチンパンジーとピグミーチンパンジーの大臼歯歯冠形状について、特にエナメル質分布とエナメル象牙境界面の形状に着目し、比較解析をおこなうことを目的とする。 本年度は歯冠形状の三次元再構築作業を引き続き進めた。コモンチンパンジーとピグミーチンパンジーの大臼歯計60標本について三次元再構築作業がおおむね完了した。これをもとに、エナメル質分布とエナメル象牙境界面の形状についての各種指標の計測方針を検討した。エナメル質分布の特徴を明らかにする指標としては、歯冠全体の平均エナメル質厚さ、咬合面の平均エナメル質厚さを算出し、同時にエナメル質分布のカラーマップを作成する方針とした。また、エナメル象牙境界面の形状の評価として、咬頭の切り立ち具合については咬頭ごとに最先端から一定分下がった断面での断面積を指標とすることとした。 これらの計測を実行するために、研究代表者らがこれまでの研究を通じて共同開発してきたCTデータ解析ソフト・CT-Rugleに、あらたな計測ツールを追加した。たとえば、咬合面エナメル質の体積計算のアルゴリズムをデザインし、開発依頼して作成した。これにより咬合面エナメル質厚さの指標として最も適切であると考えられる平均エナメル質厚さを算出することが可能となった。 さらに、実見用拡大模型作成の準備として、ラピッドプロトタイピングの各種方式を調査し、造型のためのデータの形式や条件を比較検討した。結果として精細な造型が可能でかつ支持構造が残らない、新方式の光造型法が最適であると判断された。
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