本研究は高温による穎果の炭水化物受け入れ能力の早期減退について、登熟期前半の同化産物供給量の観点から量的に明らかにすることを目的として行った。得られた主な結果は以下の通りである。 1.登熟期前半の穎果あたりの同化産物供給量と玄米千粒重あるいは外観品質との間に正の関係が認められた。またその関係は登熟期の気温によって異なり、高温下では同化産物供給量が同一でも玄米千粒重および外観品質が低いことがわかった。登熟期後半に茎中に非構造性炭水化物の再蓄積が認められ、登熟期前半の同化産物供給量がその後の穎果の炭水化物受け入れ能力を支配し、高温下では穎果の正常な成長のために必要な同化産物量が大きいことが示唆された。 2.強勢穎果のでんぷん蓄積速度が高まる時期は高温によって変化しなかったのに対し、弱勢穎果のでんぷん蓄積速度が高まる時期は高温下で早まった。したがって穎果の正常な成長のために必要な登熟期前半の同化産物量が高温下で大きいのは、弱勢穎果の登熟開始が早まることにあると考えられた。また、高温下において弱勢穎果の登熟開始が早まる傾向に対する、稲体のシンク・ソースバランスの影響は認められなかった。 3.登熟期前半の穎果への同化産物供給量に大きく寄与する茎への非構造性炭水化物蓄積に対する出穂期以前の高温の影響について調査した。その結果出穂期以前の茎への非構造性炭水化物の蓄積は高温の影響を直接受けないことがわかり、窒素吸収量が大きくなることの間接的な影響であることが示唆された。 以上のことから高温下では弱勢穎果の登熟開始が早まるため、穎果の正常な成長に多くの同化産物量を要し、その結果登熟期前半の穎果への同化産物供給が不足しやすくなり、玄米収量・品質の低下に結びつくことが示唆された。登熟期前半の穎果への同化産物供給に大きく貢献する茎の非構造性炭水化物蓄積に対して気温は直接的に影響しないことがわかった。
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