地勢的な景観構造と両生類の対応関係を通して、その分布パターンを把握することは、その保全上重要な情報となる。特に水田を有する農村域では、近代集約管理型水田耕作の浸透、あるいは後継者不足による耕作管理の粗放化・放棄等、両極端に特徴的な農村景観の著しい変容が生じており、両生類の安定した生息が危惧される。そこで平成16年度の研究では、大規模河川の中流部に発達する山麓の棚田地域を対象に調査を行い、生息分布とその多寡から景観構造との関連を考察した。 大分川中流部左岸側の棚田景観域を対象に、250m四方のグリッド・セル単位で3支河川流域の面的な悉皆調査を実施した。その際、卵塊数、幼生・幼体および成体の数、鳴き声の重複程度をそれぞれ3区分の階級値で記録し、成長段階別の補完的な指標として最も高い階級値をセル単位の生息量に用いた。流水域では、源流部の細流にブチサンショウウオとタゴガエルが、大分川本川にカジカガエルが生息した。止水域では、広範分布種(ニホンアマガエル、シュレーゲルアオガエル、トノサマガエル)、偏在分布種(ツチガエル、ヌマガエル)、局所分布種(アカハライモリ、ヤマアカガエル)等に区分された。特徴的な動向を示した種は、広く確認されたヌマガエルが、概ね標高400mを越えると生息量が下がり、550mを越えると生息しなくなった。一方、ツチガエルは支流域間で分布上限となる標高が異なっていた。トノサマガエルは広く分布するが、生息量が高い値を示すセルは少なかった。高い生息量を示すセルは、土坡型方形水田、石垣積型不定形水田の両タイプにまたがる等、今回、本種が高い生息量で維持されることの要因は把握できなかった。それぞれの種の生息分布は、山腹から大分川にかけての水域に関わる景観要素に対応しており、対象とした3支河川流域とも概ね同様な傾向を示した。
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