植物病原性卵菌類であるAphanomyces及びPhytophthoraは、遊泳能力を持つ遊走子細胞を形成することにより宿主植物に到達し感染する。その際、遊走子は被嚢化しさらに被嚢胞子の発芽が起こる。この遊走子形態変化は宿主感染機構において重要な過程であるがその分子機構については不明な点が多い。本研究では、遊走子の形態変化分子機構解明とその制御に関わる基礎的知見を得ることを目的とし、動植物で様々な生理作用を示す一酸化窒素(NO)の遊走子被嚢化及び発芽に対する影響を調べた。 Aphanomyces cochlioides及びPhytophthora sojae遊走子を自発的NO発生試薬であるNOC5またはNOR3で処理したところ、被嚢化及び発芽率が有意に上昇した。また、哺乳類型NO合成酵素(NOS)の基質であるアルギニンでも遊走子の発芽促進が観察されたため、DOE Joint Genome InstituteのP.sojaeゲノムデータベースを用いNOS様遺伝子の探索を行ったところ、アミノ酸配列で70%の相同性を持つ遺伝子が存在した。しかし、この遺伝子はオキシダーゼドメインを欠いており、同遺伝子を導入した大腸菌ではアルギニン由来のNO生成活性は確認出来なかった。また、脱窒菌や一部の真菌では脱窒過程においてNOを生成することが報告されていることから、脱窒に関わる酵素群遺伝子についても検索したところ、亜硝酸をNOに変換する亜硝酸還元酵素と高い相同性をもつ遺伝子が見つかった。 本研究課題の遂行により、A.cochlioides及びP.sojae遊走子の被嚢化及び発芽機構にNOが大きな影響を与える事が分かった。卵菌類の遊走子は宿主植物に到達できなかった場合は被嚢化しても発芽せずに再度遊走子を作りだすが、NOによって遊走子を強制的に被嚢化・発芽させる"自殺発芽誘導法"等の新たな駆除法の開発への応用が期待される。
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