昆虫の表皮はクチクラとそれを裏打ちする一層の表皮細胞によって構成される。表皮は体内と体外を隔て恒常性維持に機能する他、外骨格として形態維持に重要な役割を担っている。近年、昆虫表皮における免疫反応に関する研究がカイコやショウジョウバエを用いて行われている。カイコのクチクラマトリクス内には、フェノール酸化酵素前駆体カスケードの構成因子であるフェノール酸化酵素前駆体およびその活性化酵素、ペプチドグリカン認識タンパク質、抗菌ペプチドなど、昆虫の生体防御に重要な働きをしている因子が存在している。またショウジョウバエを用いた解析でも、様々な抗菌ペプチド類の表皮細胞における発現が観察されている。本研究は、カイコ幼虫のクチクラ内に新たな免疫因子を同定することを目的としている。今年度は、2次元電気泳動とマス解析を組み合わせた、新規カイコ表皮免疫因子同定を試みた。また、その為の試料調製の最適条件の検討も行った。試料調製で重要と思われる事の一つに、フェノール酸化酵素前駆体の活性化を抑制する事が挙げられる。フェノール酸化酵素前駆体は、一旦活性化すると粘着性を示し他のタンパク質等と複合体を形成するので、以後の電気泳動による解析に支障をきたす。よって、フェノール酸化酵素前駆体の活性化を抑えるべく、酸性pHバッファーを用い、同時にプロテアーゼの阻害剤も併用した。その結果得られた試料を2次元電気泳動により展開した際の泳動像は大変分解能の高いものであった。次にカイコ5齢幼虫にグラム陽性菌を注射し24時間後にクチクラから得られたタンパク質抽出液を2次元電気泳動で展開し、未処理幼虫由来の試料を展開した泳動像と比較した。二つの試料を比較して明らかに量の変動のあるスポットが存在したので、これを抽出しトリプシン消化後にマス解析を行った。最終的に既知タンパク質も含め10種類程の免疫応答性タンパク質が同定された。
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