本年は対象をクワコナカイガラムシに絞り、茨城、広島および鳥取県において本種および天敵類の採集・調査を見取り法、各種トラップ手法を用いて行った。結果、いずれの地域においてもコナカイガラムシ密度が極めて低い状態からクワコナカイガラヤドリバチの寄生が認められ、本寄生蜂がクワコナカイガラムシ個体群の密度抑制要因として恒常的に機能している可能性が示された。一方、卵期の死亡主因として期待された捕食性天敵の活動はマジックテープに卵塊を付着させたトラップでみる限り低調であった。しかしながら、本研究に関しては卵塊の付着のさせ方やトラップ構造が捕食性天敵の活動に影響を与えた可能性もあり、卵塊を曝す方法について更に検討が必要と考えられた。 コナカイガラムシ低密度環境における天敵類の抑制機能を野外で定量的に評価するため、鉢植え植物に寄生させたコナカイガラムシをモニタリングする手法を検討した。卵期については、人工構造物に産卵を誘導する方法を検討し、卵塊周辺の微環境をコントロールすることが可能となった。幼体期については脱皮前後で移動頻度が高く、観察期間を各齢期に限定する必要があるものの、個別に追跡する手法が確立された。また、植物についても数種検討したが、管理や虫の定着性の問題からブドウが適当と考えられた。 クワコナカイガラヤドリバチについて、寄主低密度状況における活動解明を目的に行動観察を連続的かつ定量的に行うべく、個体追跡を中心としたビデオ解析システムを整備した。また、寄主個体群が消滅しないメカニズムを解明するため、寄主の寄生部位と本蜂の寄生活動について室内実験を行った結果、狭小部にいる個体は寄生を受ける確率が低い可能性が示された。 捕食性天敵については室内での累代飼育法について検討したが、野外での活動モニタリング方法の精度向上、野外実験的手法の確立に努める方が現段階では現実的であると考えられた。
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