本研究は、カイコrRNA遺伝子28S領域に部位特異的な挿入が確認されているnon-LTR型レトロトランスポゾンR1Bmを用い、これら転移因子タンパク質がどのように細胞ゲノム中の標的配列を認識し結合しているのかを、計算化学的手法を導入することで解明することを目的としている. 昨年度、既報のhAP1のendonucleaseのドメイン構造を元にモデリングをおこなったR1Bmタンパク質の部分構造とR1Bmの標的配列を含むDNA分子、および含まないDNA分子とを組み合わせた系を、両分子の相対位置を変えて数種類設計し、それぞれに対しMD計算用ソフトウエアAMBERを用いてシミュレーションを行った.その結果、標的DNA分子とR1Bmタンパク質とが相互作用していると考えられる領域を数カ所同定した.それらの領域中で、直接DNA分子と作用している2箇所のアミノ酸について、アミノ酸置換したモデルをそれぞれ設計し再度シミュレーションを行った.これらのアミノ酸置換モデルではDNA分子との結合力が弱まると予想されたが、結合エネルギー解析の結果、若干のエネルギーの減少は見られたものの、両分子の構造に大きな差異は観察されなかった.現在引き続き、複数箇所同時にアミノ酸置換を行ったモデルを用いて同様のシミュレーションを実行中である.これら一連のシミュレーション結果から、両分子の結合に関わるアミノ酸残基が同定されれば、実際にアミノ酸置換を行った配列を用いて実験を行うことで、R1Bmタンパク質のDNA分子との認識・結合機構の解明につながるものと期待される.
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